『熟柿』佐藤正午

 『熟柿』を読みました。

 ある夜に不注意から事故を起こしその場を逃げてしまった女性が主人公です。
 
 妊娠中だった女性は出産し、罪を償いますが旦那に離婚をせまられ子供と会うことがないまま過ごすという物語です。
  
 女性の17年間を描く物語なんですがそこには常に自責の念がついてまわります。
   
 同時に会いたくても会うことが出来ない子供へのどうしようもない愛情が彼女を苦しめます。

 そして、どこに行っても自分の過去が今の自分の居場所を奪っていきます。

 人を殺してしまった罪は許されるものではないですが、不注意で避けようがなかった事故であっても幸せに生きることを望むことは許されないのでしょうか。

 子供の顔を見ること、子供と会うことさえも許されないことなのでしょうか。
  
 離婚前に突きつけられる「母親が犯罪者の子供と、母親に死なれた子供と、どっちがより不幸か、考えてみろ」という言葉に苦しめられる心の揺れが17年間ずっと描かれています。

 しかし、子供の幸せは子供がいないところで決められるものなのかという疑問も感じました。
   
 その問いとどう向き合うかも物語後半に出てきます。
  
 大人だけで勝手に子供のためにと思ってとった行動が果たして本当に正しい選択なのか。

 物語を読み終えてもその問いの答えは分かりません。

 ただ一筋の希望の光を感じることは出来ました。

 幸せになることを自ら拒否し続け、子供のためだけに生きてきた人が自らの幸せにほんの少しだけ希望を持つことすらも否定することはきっと誰にも出来ないだろうなと感じました。

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