『スピノザの診察室』夏川草介

 『スピノザの診察室』を読みました。

 『神様のカルテ』など現役医師として小説を書いてきた夏川さんの新しい小説です。

 スピノザとは哲学者の名前で僕はこの作品で始めてスピノザという哲学者の名前を知りました。

 ただ小説内でも引用されるスピノザの考え方はとても好きでした。

 スピノザの考え方の一つに「できることはない だからこそ努力する」というのがあります。

 上手くいかなかった時やどうしよもなかったことに対して、自分が悪かったと思い込み、自分を追い込んでしまう、時には周りを責めてしまう。

 そんな時に人間に出来ることなんてないと、諦めや無力感を持つのではなく、出来ることは限られているけれど、だからこそ努力すると考えるというのはとても素敵だなと思います。

 今作の主人公の雄町哲郎医師はスピノザの哲学をもとに患者と向き合い、医療と向き合っていきます。

 医療とは生きるためのものでありながら、死のためのものでもある。

 生きるために技術を追い続けて進歩し続けている医療であっても、出来ないことは多い。

 当事者がどういう死を迎えたいと願っているかによって、治療との向き合い方は違ってくる。

 当事者を支える家族や周りの人は本人の意思をどれだけ尊重するべきなのか、どうやって過ごすことが正しいのか。

 死を目の前に迎える人は幸せではないのか、死を間近にした人と周りの人にとって「幸せ」とは何なのか。

 死と幸せというなかなか結びつかないようなテーマを考えさせてくれるとてもいい小説でした。

 これからも続編を書く予定とのことなので、マチ先生のこれからを楽しみにしていきたいと思っています。



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