『爆弾』呉勝浩

 本屋の店頭でこのミス大賞など複数の賞を受賞しているという帯を見かけて読んでみたいなと思っていた『爆弾』を読みました。

 少しミステリーから離れていたんですが、『爆弾』は先が気になるドキドキ感を味わいながらしっかりと読み切ることができました。

 タイトルにある通り爆弾が東京に仕掛けられていて、場所を突き止められるのかというのが話の大筋です。

 犯人は酒屋で店主と小競り合いをして捕まった中年男性、パッとしない風貌ですが身元を明かすものもまったく持っていない、自ら名乗る名前も明らかに偽名。

 そんな男が霊感があると言って最初の爆弾の予告をするところから物語は始まっていきます。

 犯人は霊感だと言って次の爆弾についてもヒントを出します。

 警察は未然に防ぐことが出来ず、いよいよ本格的な取り調べが始まっていきます。

 取調室でのやり取りから過去にあった警察の不祥事とのつながりがチラつき始め、いつの間にか犯人の手玉に取られていってしまう。

 警察は犯人の真相を読み切ることが出来るのか、犯人の目的はどこにあるのか。

 ラストになっていくにつれて物語が熱を帯びていって一気にページをめくってしまいます。

 面白いミステリー小説でした。

 ここからはもう少し内容に触れますので、ネタバレしたくない人は注意してください。

 悪の主張は社会では受け入れられないと分かっていても・・・

 犯人は無差別に爆弾を仕掛けていくんですが、警察に罪のない人を無差別に危険にさらすことについて咎められて、自分は世間からどうでもいいと思われているだから自分も別に相手が死んでしまってもどうでもいいと言った主張をします。

 明らかに間違っていて、死んでいい人なんていないんですが、では人は毎日殺されている多くの人のことを考えながら生きているでしょうか。

 人は知らない人の死まで考えてはいません。

 犯人はもし目の前で、身近な人の命とまったく知らない人の命のどちらかを選択しなければならないとなった時に身近な人を選択してしまいますよね?といった質問をします。

 他にも保育園とホームレスの炊き出しの場所に爆弾を仕掛けて、わざと保育園側からヒントを出してホームレス側の爆弾のヒントを後にして、警察の爆弾捜索を失敗させます。

 そのうえで取り調べしている相手に保育園が解決して、少し良かったと思っているでしょと命の選択をしていることを突き付けます。

 図星だった警察は激情してしまい、犯人の手玉に取られてしまう。

 僕も読みながら犯人の問いに何度か心を揺さぶられてしまいました。

 絶対の正義なんてものはなくて、正義とは迷いながらでも自分の心に問いかけて考えて、その時に出した最善を信じることなんだと思いました。

IMG_3365